REPORTS
12月18日(土)に下北沢ERAにて新人発掘企画「michikai」の最終審査が行われた。大学生限定新人アーティスト発掘企画となる本イベント。一次審査、二次審査を経てファイナリストは7組。二次審査ではスタジオで関係者のみが観覧する場だったが、一方で最終審査はライブハウスで有観客のライブ。彼らにとってはむしろこちらの方が馴染みのあるフィールドだったのではないか。そのせいか、改めて相対すると彼らのむき出しの表情が垣間見えていた。そんな彼らが奏でるこれからの音楽シーンを目の当たりにしようと、限られた会場キャパシティの中で大学生を中心とした多くのオーディエンスが集まった。
トップバッターという大役を担ったのは、michikaiでも群を抜いて感情を揺さぶるラウドバンドの弁天ランド。開始数秒後からぶつけられる熱量はmichikai幕開けの合図としてはこれ以上ない適任だった。見ている人全てに自分たちを投げうとうとする真摯な姿勢はここでも健在だった。正統派といっても今ではむしろ稀な部類かもしれない正直すぎる彼らの音楽は、michikai開始の合図としてはこれ以上ないほどの適役だった。ライブでも発揮された、音源では女声と聞き紛うほどのベースによるコーラスからも感じ取れる、エネルギーの隙間から漂う繊細さが良いしこりを残し、記憶から離れない強烈で一筋縄ではいかない印象を与えていった。21世紀間近生まれの自分たちにとっては、音楽に触れたいと思った原体験を思い出す迫力だった。
TEXT:田島
昨年2020年は誰もが家に閉じこもり、内に潜む情熱をジリジリと燃やすしかない一年だっただろう。その為か、エントリー毎に彼らの持ち味が際立つ作品が立ち並んだ。その中でも特に曲者だと思わされたのはカラコルムの山々だった。ベースのソロに他3人のボーカルを重ねたトリッキーなリズムを奏で始めた瞬間に、彼らを含めたこれから登場するファイナリスト全てが三者三様である事を予感させられた。この企画に、語弊を恐れずに言えば不穏な空気を呼び込む存在だっただろう。謡ともとれるようなボーカルと日本語の妙を積極的に取り入れた歌詞。そしてギターを含めた緻密なリズムが融合した彼らの音楽は見る人によってさまざまな色を見せる不可思議な親しさを抱えていた。混沌としたものを核に持つが混乱は与えない奇妙なバランスの上にいる彼ら、これからますますその牙を磨くか、それとも新たなポップさを獲得するのか、どちらに進んでも楽しみなバンドだった。
3番手のHALLEYはmichikai内の技巧派であると同時に若手でもある、可能性を具現化したようなバンドだった。二次審査ではボーカルが留学中のため不在でありインストのみのセットだったが、圧倒的なスキルはボーカルが不在の彼らを最終審査に進める程のものであった。そして、ラップボーカルをサポートに呼び、乗り込んだ最終審査。筆者は彼らの持つカリスマ性が見せる大衆性に驚かされた。ヴォコーダーを駆使した音の重ね、ラップを生かしながら更にグルーヴを重ねるような演奏は活動から半年程度であるとは全く思えない。楽屋で入場SEを尋ねたときに見せた笑顔そのまま、セッションを楽しむ姿はさわやかさと老練さが同居しているようだった。
ファイナリスト7組を見るとバンド編成が目立つが、応募者にはソロで活動するシンガーソングライターもよく見られた。イメージを固めるところから実際の制作まですべて自分自身に依る以上、彼らのスタイルには相当のプレッシャーと技術が求められがちだ。それこそ、始めた瞬間に空気が一変するような支配力があるとみなされがちだろう。ゆうさりが動き始めるとフロアの様子が一変するのを感じたが、まさに重圧を跳ね返し応えてみせた瞬間だった。折り返し地点の4番にふさわしい。フェーズが変わったことを知らせるようにどこかリズムに富んだギターとボーカルの重なりは確実に見る人に感情の揺れを感じ起こさせただろう。
さて、後半戦は独特のグルーヴを持つhollow meによって幕を開けた。最終審査はひとつのライブとしても楽しませてもらったが、hollow meの後に感じた感覚は他には無い奇妙なバランスの上にあり、浮沈が交互に訪れるこの感じは彼らのライブでしか感じることができないであろう。普段とは違うオケージョンでのライブということもあり、MCで「こんなにたくさんの人の前で演奏するのは初めて」と投げかけた彼らにとって圧倒される状況ではあったと思うが、安定したhollow meらしさあふれるサウンドでフロアをノスタルジックな世界観に包み込んだ。彼らがこの先未知の揺らめきを更に深化させることに期待したい。
多人数の編成だが中核のメンバーは少数という、より流動的な活動を志向する人々が増えていることをmichikaiでは実感させられた。変化や刷新を積極的に取り込む上ではこの形態は非常に効果的である分、核となるメンバーには強固な牽引力が求められるだろう。その源泉の一つは、強固なビジョンなのだろうとアンニュイ・ホリデイを見ながら感じた。聴き馴染みのある様々なポップスを咀嚼した上で発される楽曲は、彼らのパフォーマンス能力の高さも相まって、まさしく「プロジェクト」としての絶対的強度を体感させられた。
最後2組はポップスをベースに表現を行うユニットが連続したが、聞いた際の印象は大きく方向が異なる。「ポップの奥深さ」をアンニュイ・ホリデイからは感じたが、トリを飾るランプスからは「ポップの楽しみやすさ」を思い起こされた。彼らも中核メンバーは2人(ボーカルとキーボードのみ)編成だが、ボーカルが演者含めたライブ全体の空気をぐいぐいと引っ張り自分のものにしていく様子からは貫禄さえ漂っていた。その上でキーボードが先頭を走る彼女を下支えする関係はライブを見れば明らかだ。観客1人1人を見つめ、PA卓にまで手を振る彼女達の人懐こさと力強さはmichikaiの終わりに相応しいものだった。
2020年の行動を抑える事を余儀なくされたあの期間は、同時に彼らの表現を深くするチャンスでもあったと思う。そうでなければ、こうしたフェスかのような並びにはならなかっただろう。個々がそれぞれの独自性を磨き上げ、その上で技能が引けを取らない水準まで及んでいる。この企画は、大学生の音楽が今どのようなものなのかを同時に感じ取れる場を設ける事が目的の一つにあった。その試みは、来場者の様子を見る限り、成功と言っていいだろう。
約5時間の難しい競い合いの末、グランプリに輝いたのはhollow me。特別賞にはカラコルムの山々とランプスが選出された。選出後のインタビューで茫然とするhollow meの様子で、彼らはまだ駆け出したばかりなのだと改めて思い出すこととなった。これからの時代を飲み込んで、それぞれに彩るであろう超新星アーティスト達が集った、若手の今を音楽シーンに知らしめる一夜となった。